つくったものを使ってみて、改良し、また使う―。この工程こそが、日本が伝統的に守ってきた“ものづくりの精神”です。これを繰り返すことにより、世界にも類を見ないものづくりの技術が確立されてきたのです。
例えば、ハッカー。鉄筋を結束線で結ぶ道具として鉄筋工具として古くから知られている工具ですが、かね一商店の店頭にはハッカーだけでひとつの売り場スペースを設けるほど、多くの種類があります。なぜなら、使う人によって、最適なハッカーがそれぞれ違うからです。職人の世界はこだわりが強いからこそ、「最善の商品」はひとつではないのです。
お客様からいただく声の中に、「持ち手の部分に手を挟んでしまうことがある」というものがありました。その際は、持ち手を改良しました。さらに持ち手が滑りやすいという声をいただいた際には、滑りにくい持ち手に改良しました。
このように引っ掛ける部分の大きさや角度にいたるまで、お客様の声をもとにさまざまな種類のものを製造・改良してきました。
現在、店頭に並んでいる「かね一ブランド」がつけられた商品の種類は、そのままお客様からいただいたご要望の数なのです。
日々、多くの大工や職人の方々と向き合っていると気づくのですが、皆様、本当に器用な方が多いということです。そのためお使いになる工具に関しても、購入した形でそのまま使うのではなく、ご自身で使いやすいように改良されることがよくあります。
例えば、先ほど紹介したハッカーです。単に針金(結束線)を引っ掛けて結束するための工具と思われがちですが、実はとても奥が深く、仕事内容や使い勝手などに応じて、適切な形というものがあります。とはいえ、全ての方々のご要望にお応えするのは決して容易ではありません。だからこそ、当店では「少し大きめ」のものをおすすめしています。これは、購入されたお客様がご自身の手で削り、使いやすい形に加工していただけるようにとの配慮からです。
確かに工具というのは、購入した形のまま使用するのが普通かも知れません。しかし、こだわりの世界で使われる道具というのは、購入後に形を変えることも想定しておくべきなのです。
現在の「かね一」というブランドが多くのお客様からのご支持をいただいているのは、こうした現場の声を形にしているからだと自負しております。